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『夢見ノ姫 2』
2007/05/30 12:54 (Wed) - 創作メモ
『――金色の髪 夜闇の瞳
 光を纏い従える あらゆる自然を統べる王
 その美しさ比類なく
 正しく世界に愛されし者――』





「レヴィン!!」

 突然に開いた扉から飛び込んできた“それ”を見たとき、フィアは古い詩を思い出した。その昔に吟遊詩人が謳ったという、古い古い詩だ。

「リっ、リィ様!?」

 シルフィの悲鳴混じりの甲高い声で我に返り、改めて乱入者に視線を向ける。

 金の髪と青い瞳はエルフの特徴だが、一口に金や青といっても様々だ。
 フィアの母親は金茶の髪に灰青色の瞳だったし、村で一緒に暮らしていた他のエルフの大人達も、オレンジがかった色からほとんど茶色に近いもの、瞳の色も淡い空色や群青、紺色、変わった所では緑混じりの翡翠のような色もあった。

 だが今飛び込んできた乱入者は、まさしく金色と呼ぶに相応しい輝く髪と、濃く、しかし透明度の高い澄んだ藍の瞳。ここまで見事にエルフという種族を体現したものは見た事がない。
 その上、どこかレヴィンに似通ったものも感じるのだ。ただ単に髪や瞳の色が近いというのではなく、雰囲気や空気とでも言うのだろうか――そうした不可視の部分で、何か共通したものをフィアは感じた気がした。



「あの、リィ様はなぜこちらに……」

 驚愕から気を取り直したシルフィの声に、部屋中を忙しなく見回していた乱入者はぴたりと動きを止めた。

「レヴィン」
「え?」
「レヴィン、帰ってきた、聞いた。人間とハーフエルフ、連れてきた。リィ聞いた」

 外見年齢は十と少し、といったところだろうか。癖のないまっすぐな髪を肩を少し越える長さで切り揃えた少女は、見た目の幼さに似合わぬ意志の強い瞳でシルフィを見つめて言った。

「レヴィン帰ってきた。だからリィ、会いに来た。……レヴィン、いないのか?」
「あ、ええ……。今レヴィン様は長老様達とお話をなさってますわ。多分リィ様でも中には入れてもらえないと……」
「……そうか……」

 片言ではあるがはっきりとした口調で告げると、微かに小首を傾げて問う。そしてレヴィンがいないとわかるや否や、表情こそ変わらないものの明らかに落胆した様子でうなだれる。
 その子供っぽい仕草と大人びた雰囲気のミスマッチがおかしくて、フィアは気付けば口を開いていた。

「レヴィンの知り合いなんだ?」
「ええ。そうですわ」
「リィ様はレヴィン様が教育係をしておられた、いわば教え子です」

 一瞬の間の後、シルフィ、イフリルとそれぞれの答えが返ってくる中、リィと呼ばれた少女はじっとフィアを見ている。それは「見つめる」などという可愛らしいものではなく、文字通り「凝視」しているのだ。
 それでもフィアは気にする事なく、にへらと笑ってみせた。

「あ、オレそのレヴィンが連れてきた奴。正確には連れてきたってよか一緒にくっついてきたって感じなんだけど」
「…………」
「オレらもさ、レヴィンは話があるからって、ここで待つように言われたんだ。終わったら来るはずだから、何ならここで一緒に待てば? ――あ、もちろんそっちが良ければの話なんだけど」

 話す最中も視線は一度も外されない。その強さにさすがにうろたえ、そして今の状況を思い出して、フィアは慌てて付け足した。後ろで窓際に座ったままのウィグが呆れを含んだ息を吐く。

「あー……」

 じっと見上げたまま言葉を発さない相手にさすがのフィアも肝を冷やし始める。やっぱり“ここ”で普段通りにはいかないか、と心中でため息をついたそのとき、

「…………レヴィン、知ってる?」
「え? あ、あ……うん。知ってる知ってる。友達だもん」

 ふいに放たれた言葉に驚きつつ頷くと、また言葉がかけられる。

「レヴィンここ来る?」
「そう言ってたよ。話がすんだら行くから待っててくれって」
「…………」

 また黙り込んでしまった少女の言葉をフィアは待ったが、何も言いそうにないと判断し再び自ら口火を切った。

「あー、あの……気にしないでいーよ。オレらはレヴィン達といるのに慣れちゃったからエルフも精霊も気になんないんだけどさ、そっちはそうじゃないもんな。いきなり乗り込んできた人間とか……ましてやハーフエルフとなんか、一緒にいたくないよな」

 ゴメン、と少し苦い表情で告げると、少女はそれまでのような強い瞳ではなく、不思議なものを見るような眼でしげしげとフィアを見た。
 見つめられて目を反らせず、そのまま互いに沈黙していると、

「!?」
「きゃっ!?」

 少女は何の前触れもなく傍らに浮かぶシルフィとイフリルを両手でむんずと捕まえ、フィアの目の前に差し出した。

「見える?」
「…………へ?」

 理解できずに間の抜けた声を上げると、これ、とさらに近くに差し出された。

「えと……シルフィとイフリルだろ? 見えてるけど……」

 近付き過ぎてぼやけた視界にシルフィとイフリルの驚いた顔を映して答える。少女は丸い瞳を少し見開いて両手を開き、解放されてほっと息をついた二人を再び手の中におさめ小走りに部屋を縦断して、ウィグの前に膝をつくと同じように両手を突き出した。
 少女が飛び込んできてからずっと冷静に事態を見ていたウィグは苦笑気味に、人差し指でそれぞれの額を順に軽く小突きながら答える。

「イフリル。と、シルフィ。それより、離してやったらどうだ?」

 またしても少し驚いた表情のまま、少女は両手を開いた。今度こそ解放されたらしいシルフィとイフリルは揃って大きく息を吐く。
 少女はフィアとウィグを交互に見て、言った。

「……人間?」
「俺はな。そっちの赤目はハーフエルフ」
「二人、精霊見える。人間見えないはず。なんで?」

 「レヴィン達」 というフィアの言葉に、精霊であるイフリルやシルフィが含まれている事に気付いたのだろう。二人を捕まえた手を一度離したのは、本当に見えているのかを確認するためだ。

「あーえっと…………慣れ、とか?」
「お前はな。俺は努力だ」

 今ひとつ緊張感のない答えに、多少呆れを含んだ声でウィグが訂正を入れる。

「あいつはハーフエルフだから、元々結構見えてたんだ。俺はレヴィンと知り合ってイフリルやシルフィに会って……あいつやレヴィンは普通に話してるのに俺だけ見えないってのが嫌で、色々試してひたすら訓練した」
「訓、練……。訓練して、見える?」
「全部完璧にってわけじゃないし、個人差もあるだろうけどな。俺はある程度力のある……そうだな、仕精霊ぐらいのレベルなら、大体は見えると思う」
「…………」
「リィ様?」

 ぱたりと口を噤んだ少女に、フィアとウィグは顔を見合わせて首をひねり、イフリルとシルフィは恐る恐る反応を窺う。
 と、少女は一言も発さないまま音もなくその場に座り込んだ。ウィグに話しかけるために膝をついた状態ではなく、文字通り腰を下ろしたのだ。

「……えっと……?」

 今一つ理解しかねる言動の数々に戸惑っていると、

「待つ」

 と、これまた端的すぎる言葉が発される。

「リィ、ここでレヴィン戻るの待つ。……構わないか?」
「あ……う、うん。もちろん! な!」
「ああ。レヴィンの知り合いなら尚更、話もしてみたいしな」

 どうやら、フィアが心配したような絶対的な反人間的思想を持っているわけではないらしい。
 聖地に来て初めての、むき出しの嫌悪感を感じる事なく話せる相手に、フィアは我知らず頬を弛ませた。

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