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『言紡ぎ 1』
2008/03/02 17:57 (Sun) - 創作メモ
「じゃ、悪いけどあと頼むね」


「はい。あ、え? あの、フィアさんどちらへ……?」

 風牢に向かうウィグを見送って、フィアは身を翻す。その手が上部ハッチに続くラダーを握っているのを見て、カレンが戸惑った声をあげた。

「んー……。ちょっと、ね」

 頬を掻いて珍しく言い澱むフィアの顔には、躊躇いと照れ。けれどすっと上げた瞳にはいつもの強気な光が宿る。

「ウィグは自分にできることをしに行っただろ? だからオレも、自分にできることをしなきゃと思って」
「はあ……」
「うまくいくかどうかわかんないけど、とりあえずやってみようと思ってさ。クリフ、風牢の風上に移動して……って、この風じゃ風上もなにもないか?」
「風牢を中心に気流が乱れています。上空の風の流れではこちらが風上になっていますが」
「んじゃそれでいいや。五分ぐらいで戻るからさ。したら交代するから、カレン達も休んで」

 こっち来てから起動しっぱなしだろ?と続けるフィアに、カレンは慌てた様子で首を振る。

「いえ、そんな! 大丈夫です最大連続稼働時間にはまだまだ」
「お二人がレヴィンさんに同行してから、特に異常もありませんでしたので。私達は周囲の探査・索敵のみ行っていただけです」

 カレンに続いてマリノアの淡々とした声が告げる。フィアは笑って、

「でも休眠はしてないだろ? いざってときに限界です、なんてなられたら困るしさ」

 操縦桿を握るクリフ、オペレーターのマリノア、そして雑務担当のカレンは、飛空艇の補助システムとして組み込まれたアンドロイドだ。
 それぞれが独自の疑似人格を持ち、知識なども独立する反面、飛空艇自体のシステムとリンクすることで情報の共有も可能になる。
 そして自己学習型の三人は、自らの経験から学び常に進化し続ける。既存のプログラムに固執しない柔軟さがウリだが、そのためには会得した体験や知識を整理し、必要に応じてプログラムを書き換えなければならない。そのために必要なのが「休眠」なのだ。
 整理されないままの情報が蓄積されると、三人を動かすAIに負担がかかり活動に支障が出る。人間でいう疲労にあたるといってもいいかもしれない。フィアはそれを気にしているのだ。

「……わかりました。では、交代で十分ずつ休眠をとるということで」
「ん。本当はもちょっと時間とりたいとこだけど……ウィグの方も、いつ動くかわかんないし」

 モニターに映し出された砂嵐の向こう、竜巻に似た円筒形の風の渦を、フィアは目をこらすように見つめる。それから目を閉じて深呼吸をひとつ。

「んじゃ、ちょっとだけ頼む」
「はい。……気をつけてくださいね」
「だいじょーぶ、ちゃんと持ってくから。……使いたかないけどさ」

 不安そうなカレンに対し、フィアは腰に吊ったホルスターを軽く叩いてみせる。中身は愛用の拳銃だ。すでにスライドは引かれ一発目が薬室に収まって、いつでも撃てる状態になっている。

『余も行こう。此の中に居るよりは外の様子も掴み易い』

 音もなく肩に降りたノームに頷いて、フィアは上部ハッチへのラダーを登る。
 気密性を保つためのエアカーテンを抜けて艇の上部へ出ると、正面から強い風が吹き付けて髪を乱した。

「……やっぱ、なんつーか痛い、な」

 片膝をついた姿勢でじっと風牢を見つめながら、フィアがこぼした言葉。この風で紛れてしまう小さな声も、フィアの肩にいるノームにはしっかりと聞き取れる。

『風がか』
「うん、それもあるけど。でもそれより、気持ち、っていうのかな。そういうのが」
『…………』

 ノームが答えを返さなかったのは、言葉の意味がわからなかったからではない。

 風牢を作り出し、同朋であるシルフィさえも容赦なく裁こうとしている風の精霊達。その力によって生み出された風は、意図しないままに精霊達の想いを伝えてくる。

“罰を”
“掟を破った者に裁きを”
“裏切りには罰を”
“天の裁きを”

 レヴィン。イフリル。シルフィ。
 掟を破り秩序を乱した者に対する怒りと絶望。争いを好まないエルフと精霊が、それでも残酷な刑を行わなければならないことに対するやるせなさ。悲しみ。
 そうした想いが、巻き起こる風とともに叩きつけられるのだ。体以上に、心が痛かった。

 きゅ、と引き結ばれた唇になにを思ったか、ノームは静かに沈黙を破る。

『――して、出来る事をするとは如何様に致す』
「あーうん、とりあえずね。歌ってみようかと」



* * * * *



「…………クリフ、マリノア」

 艇内、ブリッジにて。

「フィアさんが、壊れたかも」

 艇外カメラでフィア達の様子を見守っていたカレンがなんとも情けない声を出すが、クリフとマリノアはそれに答える術を持ち合わせていなかった。

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