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『言紡ぎ 2』
2009/03/06 18:13 (Fri) - 創作メモ
 それは、静かな歌だった。


「何年振りとかだから、ちょっと不安なんだけどさ」

 自分にできることをする――そう言ったフィアは、なにをするつもりかと訊ねたノームに対して

「あーうん、とりあえずね。歌ってみようかと」

 と、そう答え、それから少し照れたような笑みとともに先の台詞を付け足した。



 一応デッキの形をとってはいるもののほとんど他と変わりない飛空艇の外装の上で、吹きつける風を肌に感じながら、フィアは目を閉じ音を紡ぐ。

 静かな、優しい歌だった。
 天を貫くような高音も、地を這うような低音もない。
 一人の人間の声帯から無理なく発せられる範囲で紡がれる音。
 その音を綴って生まれるのは、技巧を凝らしたようなものでは決してなく、単純で滑らかなメロディー。
 世界の姿を謳った詩はどこか儚く、けれどどこまでも優しく響いた。



(……此の、唄……!)

 驚愕に目を見開き思考さえ途切れるノームに気づくことなく、フィアの歌声は朗々と響き渡る。鉄面皮、と自他ともに認めるノームが見せた表情に疑問を持つ者は、幸か不幸かこの場にはいなかった。

「……っは~。ちゃんと歌えた……」

 荒れ狂う風の音にも負けず耳の奥に余韻を残し、緩やかに伸びて歌声が途切れた。
 胸に手を当て大きく息を吐き出すフィアの隣で、歌が始まる前には存在しなかった戸惑いの感情が吹き付ける風に含まれているのをノームは感じ取っていた。

「――此が、お主の 『出来る事』 か」

 集中を乱さぬよう少し置いていた距離を詰め、いつも通りフィアの肩に乗ったノームが問う。

「あーうん、まあ……。ホラ、おまじない程度でも気休めにはなるっつーか、しないよりはマシかなーって」

 あはは、と照れ隠しのように笑うフィアの言葉に、ノームは確信を得る。
 ――いや、わかってはいたのだ。ただどうしても信じがたかっただけで。
 この歌の本当の意味を知っていたなら、たとえどんな非常時だとしてもフィアは決して歌わなかっただろう。そういう奴なのだと、ノームはすでに知っている。知れるほどには時間を共にしてきたし、フィアの心には嘘がなかった。
 だからこそ躊躇い、けれど最後には口を開いた。

「其の唄は、呪いではない」
「うん。ん? ………………へ!?」

 言葉の意味を呑み込むのに時間がかかった。

「は、え、なに。まじない……まじないじゃないって言った今? じゃあなになにこれおまじないだって教わったんですけど!?」
「其れはエルフ族の使う力の一つ。 『言紡ぎ』 と云う」
「こ? ……こと、つむぎ……?」
『文字通り、言葉を紡ぎ力と成す業のことです』
「!」

 突如割り込んだ “声” ――思念波に、フィアはとっさに身を固くした。ふと見れば、手こそ届きはしないが随分と近くに精霊がいる。ノームの言葉にそれほど動揺していたのかと思わず自嘲の笑みが漏れた。
 この場にいるということや本人の雰囲気からして、風の精霊で間違いないだろう。ただしシルフィよりもよほど落ち着きを感じる。

『まさか、知らずに歌っておられたとは思いませんでしたが――』

 控えめな言葉と態度はフィアの肩にいるノームの存在を意識してのことだろうか。フィアやウィグは 「じいちゃん」 などと気安く呼んでいるが、引退したとはいえ精霊王の位にあったノームの影響力は未だ強い。
 それはともかく。

「や、知らないもなにも、だっておまじないだっつって教わったんだよオレ! つか力ってなに、なんかあんの!?」

 単なるおまじないと思い、自分の気持ちを落ち着かせるという意味も込めて気休め程度に歌ったフィアだ。なのにそれが思った以上に意味のあるものらしいと、ノームと目の前の精霊を慌ただしく見比べながら言う。

『 『言紡ぎ』 は旋律と詩の変化によって様々な力を持つ業です。その昔、エルフ族の始祖となった者は一切の言葉を要さず、言紡ぎの力だけであらゆる精霊と意思を交わし思いのままにその力を借りたと言われています』

 精霊はやわらかく笑って、エルフや精霊にしてはある種一般常識的な、フィアにとっては全く初耳な事実を教えてくれた。さらにノームが

「お主が今し方歌ったのは最も基本とされるもの故、さして影響力も無い。安心するが良い」

 と微妙極まりないフォローを入れるが、しかし当然それで安心などできるはずもなく。

「いいい一体どんな……」
「聴く者に歌い手の感情を伝えるものじゃ。半強制的な呼び掛けじゃな」
「強制っ!?」

 見事に声がひっくり返って、フィアは自分もひっくり返りたい気分になった。

「ちょ、強制、強制って……! それでなくてもオレら色々あんのにそんなん余計反感買っちまうじゃん! って、ハッ……!」

 なんでもっと早く教えてくんないんだよ!と掴みかからんばかりの勢いでノームに詰め寄っていたフィアが、急に勢いよく振り返る。視線の先には驚いた様子の風の精霊。

「ま、まさかそれで…… 『うぜーんだよテメー』 みたいな抗議的な……! うあぁあごめんなさいすいません知らなかったんですマジで知らなかったんです謝るからごめんなさいーー!!」

 ノームをして 「面白い」 と言わしめる胆力のフィアもさすがにそろそろ限界らしい。仲間の命がかかった四面楚歌のこの状況で、今まで落ち着きを保っていられたのがそもそも驚くべきことなのだが、ともかく今や完全にパニック状態に陥っていた。

「どーしよーねえじいちゃんどうしたらいい!? だってオレ 『精霊さん達と仲良くなりやすくなるおまじない』 って聞いたんだぜ!?」
「成る程。あながち間違いでは無いな」
「納得してる場合じゃねえぇぇ!!」

 絶叫。手の平に納まるサイズのノームを両手に捉え詰め寄るも、ノームは感心したように言葉を零すだけだ。
 フィアの勢いに怖じ気づいたか、そんな様子を困ったように眺めるだけだった風の精霊が、しかし意を決したように口を挟んだ。

「そりゃ大して期待してなかったし気休めでもなんでもって思ってたけど怒らせるのは想定外だよ逆効果じゃんかー!」
『あ、あの……! 私がここへ来たのはそういうことではありません。……彼らを、助けて頂きたいのです』



「――――ふえ?」

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