[PR]
× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 『if』
2011/06/24 21:32 (Fri) - 創作メモ
「お前なにやって……――まさか、出る気だったのか?」
言葉は不自然に途切れ、けれどほとんど間を空けることなく新たな言葉が続けられる。違うのはそこに乗せられる感情だけだ。 扱い慣れない装備を手にしたまま、フィアは視線を合わせないまま微かに頷く。返されたのはもはやウィグの癖のようにもなっている溜息のようで――実際にはそんな言葉では片付かないほどに多種で多量な、整理しきれない感情を含んだ吐息だった。 「馬鹿言え、お前じゃ無理だ。わかってるだろ」 「……ん」 再びの首肯。視線を下げたままのフィアの耳に先ほどよりも幾分軽い息を吐き出す微かな音が届く。そのまま手にした装備にウィグの手が伸びるのを見つめていれば、軽い振動と感触が頭に下りた。 「わかってるなら馬鹿なことしてんな。……元々オレの問題なんだ、オレが出るさ」 「……っ」 腹の底に渦巻いたものが急激にせり上がる。息が詰まって、何をともつかず叫び出しそうになるのをフィアは体を固くして必死で堪えた。 叫び出しそうな感情が、ずっと体の奥底にある。 その感情が何で、何を叫びたいのかはわからない。恐らく実際に声に出してみても意味のある言葉にはならないだろうその感情は、それでも確かな質量を持ってフィアの内側に巣食い、そして今回のことで急激にその勢いと存在感を増した。 嘘吐き、と罵りたいのかもしれない。そんな苦しそうな声で、歪みそうになるのを懸命に抑え込んだ表情で、それで何も感じていない振りをしているつもりかと、怒鳴りつけてやりたいのかもしれない。あるいは単純に、目の前にした現実にショックを受けているのかもしれない。なぜ話してくれなかったのかと恨み言を叩きつけてやりたいのかもしれない。 けれど結局、そのどれもフィアの喉を震わせることはない。ただ軽く頭を叩く掌の感触に唇を噛む。 ――俺は、卑怯だ。 数回往復した掌が離れ、装備の確認のためにウィグの意識と視線が自分から外れる。今までにないほど真剣な表情で念入りにチェックするその姿を見るともなしに視界に入れながら、フィアはただ唇を噛む。ただきつく唇を噛み締めて、拳を握りしめて、奥底で渦巻く何かを押さえつける。 ――卑怯だ。俺は何も知らないフリで、ずっとウィグを騙してきた。確かにお互い様かもしれない。だけど………… 「――じゃあ、…………行ってくる」 躊躇うように告げられたその声が、迷走する思考を打ち切った。その事実にフィアは泣き出したい気分になる。 ああ、同じだ。いつもそうだ。俺がドツボにはまって身動きとれなくなったときに助けてくれるのは、呆れたりバカにしたりしながら、それでもいつもウィグなんだ。 歩き出す背中を見る。開かれたドアから差し込む光がウィグの纏う色彩を別のものに見せる。それは確かにあの日の光景に重なった。 何度も夢を見た。何度も思い出した。何度も泣いたし叫んで、自分の無力を呪い続けた。 だけど、でも、―――― 「ウィグ!」 張り上げた声に足を止めたウィグは、けれど振り返りはしない。それでいいと思った。今はまだ覚悟が足りない。 代わりにその腕を掴んだ。他人にしては近く、今までどおりには遠い。微妙な距離を置いたまま腕だけを伸ばしたフィアに、ウィグは何も言わなかった。何も言わなかったし自分から触れようともしなかったけれど、腕を掴んだ手が振り払われることも、引き止めるような行為を咎められることもなかった。 ――ああそうだよ。わかってる、知ってるよ。俺は卑怯だ。だから。 「 」 「――!」 小さく、本当に微かな声で呟く。もしかしたら聞こえなくてもいいと、いや、聞こえなければいいと、どこかで思っていたのかもしれない。けれどその声は確かにウィグに届いていた。 息を飲み目を見開く様子が見えなくても想像できた。体を強張らせるのが掴んだ腕から伝わった。 いつもフィアには到底まねできない回転ぶりを見せるウィグの思考が今だけは停止かそれに近い状態なのを理解して、フィアは音もなく口角を微かに上げるだけで笑った。文字通り表情筋を動かして作っただけの歪な笑みを浮かべたまま掴んでいた腕を放してウィグの時間を動かしてやる。 「おま、え…………」 ゆっくりと振り返ったウィグは初めて見るぐらい間抜けな顔で、フィアは今度こそ少しだけ本当に笑うのに成功した。 「ウィグ!」 「っ、ああ」 強気に偉そうに、名前を呼ぶ。眉をきっと上げて両手を腰に当てて、足を開いて仁王立ちで。できるだけ自然に、いつものように。急な変化に対応できないウィグは敢えて無視した。そうして。 「ちゃんと帰ってこいよ?」 唇を吊り上げて生意気に笑ってやる。うまくできていたか自信はないけれど、そのままじっと視線を逸らさずにいればウィグが泣き笑いのような表情になって、フィアは意図が伝わったことを確信した。 「…………ああ。誰に、言ってんだよ」 思い出したように後半を付け加え、ウィグもまた自信ありげに装った表情でフィアを見返す。 視線が重なったのはほんのわずかだった。互いに隠した胸の悲痛を知りながら知らぬふりで通して、そのままウィグは部屋を出て行った。 + これでいい。フィアは胸の内で繰り返す。 ウィグに告げたのは、フィアがずっと隠し通してきた切り札だ。あれを告げられた以上、ウィグは今までのように自身の命に投げ遣りにはなれないとわかっている。 あれを告げた。そして告げたフィアがちゃんと帰ってこいと言ったのだ。ウィグはきっと這ってでも帰ってくるだろう。 それでいい。どんなにボロボロだろうと帰ってきさえすればここには助けの手がある。 本当は、もっと違うことが言えればよかった。 何でもいい。くだらないことでも、らしくないと鼻で笑われるような心配する台詞でもいい。いっそ夢見がちな少女漫画のように愛の告白でもできればよかったのかもしれない。 だけど、そんな言葉をいくら並べても無意味なのだ。何を言ってもウィグを止められないことをフィアはわかっていた。だから切り札を出したのだ。 今のウィグの心を動かせるのはあれしかなかったから。 「……そうだよ。これで、いいんだ」 呟いた声が震えていてあまりにみっともなくて、フィアは両手で自分の頬を叩く。 これでいい。これでいいんだ。 これでウィグは絶対に帰ってくる。ここには味方が沢山いるんだ、帰ってさえくれば何とでもなる。 ウィグの生きる道は繋がった。 あとは、そう。 ―――別れの準備を。 ――2011/06/20 16:21 IFストーリー。現在の脳内設定ではこうはならないハズなんだが、思い浮かんじゃったのでせっかくだから書いとく。 PR COMMENT COMMENT FORM
|
カレンダー
最新記事
最新コメント
[02/03 CerToorgoSign]
[09/05 伽耶]
[07/16 粉那]
プロフィール
HN :
高葉月 羅奈
HP :
Foolish sinner フリーエリア
日記マニュアル
ブログ内に出てくる関係者・造語・その他の解説。(?) アーカイブ
ブログ内検索
アクセス解析
|